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STAFF PRODUCTION NOTE 第1回 乙部善弘(企画プロデューサー・CGディレクター)華やかな劇場版のダンスシーンを生んだのは、YouTube版での苦労!?

『ポールプリンセス!!』の企画プロデューサー兼CGディレクターを務める乙部善弘氏。
そんな乙部氏に今回は、劇場版で新たに魅せたポールダンスパートや振付の中に込めた様々なこだわりを中心に、
『ポルプリ』に込めた想いを存分に語ってもらった。

“人生が変わった”ファンも? 乙部氏が感じた様々な反響とは

――『劇場版 ポールプリンセス!!』は約半年ものロングランを果たし、その後も全国ツアー上映や七夕のオンライン上映会(2024年7月7日実施)など様々な展開が続いています。そんな展開を実現させてきたファンの皆さんからの『ポルプリ』への愛を、乙部さんが実感した瞬間はどのようなときでしたか?

乙部善弘 公式で呼びかけている「#ポルプリみたよ」のポストで、「感動した」とか「このキャラのこともっと知りたい」みたいにいろいろ言ってくださっているのを見ると、本当に「作ってよかったなぁ」と思いますね。あと、これは完全に予想外だったんですけど、KAORI先生の教室に通ってポールダンスを始めた方が結構いらっしゃって。

――それも「結構」ですか?

乙部 はい。しかも女性だけじゃなく、男性もなんですよ。「『ポルプリ』を観たらやりたくなった」みたいにおっしゃって、「こういう技ができるようになった」みたいな写真も上げられているんですよね。正直、本格的にやり始める方がたくさんいたというのは想定外のことだったので、大変嬉しく思いました。

――愛以外にも、作品から様々なものを受け取った方からの熱を感じられたんですね。

乙部 そうですね。あとは七夕のオンライン応援上映会でも、その愛と熱を感じました。僕はこっそり観ていたんですが……最初にこのお話を聞いたときに「お金も払っていただくわけだから、ユーザーさんの負担が大きいのでは?」と思ったんです。でも作品愛から「ファンウォールに出たい」という方が集まってくれたことは嬉しかったですし、まさかポールダンスをしながら観る方がいるとは想像していなかったので、驚きました(笑)。

――え、ポールダンスをしながら?

乙部 そう。ライブが始まると、一緒にポールダンスをやり始めてるんですよ。たしか2組ほどいらっしゃったのかな?その中には『ポルプリ』を観て今年の3月から始めたという方もいらっしゃって。そういう方が「観てよかった」と思えるものを作れたというのもよかったですね。……あれこそ結構お金がかかってるはずなんですよね。上映会に合わせてちゃんとスタジオまで予約されていたはずなので(笑)。

――まさに、愛がないとそこまでできないですよね。

乙部 そうですね。七夕上映だったのできっと同じ日にいろんな他のイベントもあったと思うのですが、それでも来てくれたというのがうれしかったです。

――一方、スタッフ陣の熱量もすごい作品だとお聞きしています。なので、乙部さんがいちユーザーとして『ポールプリンセス!!』を観たとしたら、今のご自分に刺さる部分はどんなところになりそうなのかをお聞きできますか?

乙部 自分は昔からイラストとかを描きたい人だったので、もし観る側だったとしてもクリエイター目線で見ちゃうところがあったと思うんですけど……そういう意味で、めっちゃ悔しがるかもしれません。

――「悔しがる」ですか?

乙部 はい。「こんな世界があったんだ!」と衝撃を受けて、「自分が作ったことにしたかった」というような想いさえ湧いてきそうだな……って。実際漫画家さんやイラストレーターさんが結構この作品を観てくださっていると聞いていますし、僕のXのアカウントも『ポルプリ』を観た漫画家さんとかがフォローやいいねをしてくれたりしているんです。それを踏まえるとかなりクリエイターさんにも刺さっていると感じるので、やっぱりユーザー側に回ったときには素直に「いいなぁ」となって、それだけではなく「自分も何かしらに関わりたい」という気持ちになってしまったかもしれません。それぐらい「いいもの作れたかな」と思えるものになったので、頑張ってよかったと思っています。

華やかな劇場版のダンスシーンを生んだのは、YouTube版での苦労!?

――多くの方にそう感じさせた一因が、物凄いクオリティで魅了してくれた素晴らしいダンスシーンだと思います。どのような制作過程を経て、この劇場版に至ったのかお聞かせいただけますでしょうか。

乙部 まず、制作初期の頃から劇場版というものを想定してはいたので、その劇場版の中で「対決」という形を取るとなったところで「ここで何かしら大きな花火を打ち上げられたら……」とは思っていました。ただ、YouTube版の制作初期の頃は、具体的にどうするかというのはそんなに決まっていなくて。「とりあえずYouTube版をやることで作業自体にも慣れてくるだろうし。何かしらプラスαなこともできるだろう」ぐらいの感覚だったんです。そうしたらYouTube版の制作に「本当に劇場版なんてできるのか?」と不安になってしまうぐらいの、想像以上の大変さがあったんですよ(笑)。

――そんな部分に、想像とのズレがあったんですか?

乙部 今までいろいろ携わってきていたアイドルモノのノウハウのままで作業に入ったら、予想以上に修正箇所が多く出てしまって……ほとんど修正に時間をかけていたような感じだったんです。なので、YouTube版の制作後に劇場版に向けて、最初にモデルデータのブラッシュアップから始めたんです。

――どんな部分が、劇場版に向けて変わっていったんですか?

乙部 「どの方向から見ても問題ないモデルにする」ということを、特に意識したものになりました。アイドルモノのときは、スカートの中に見えてはいけないものを隠す形を取っていたんですけど、ポールダンスだとスカートの中まで見えてしまうので、そういった意識が必要になったんですよね。その意識を徹底したうえでブラッシュアップしていったら、逆に劇場版は想像よりも大変にならずに済んだんです(笑)。おかげでそのぶん演出のエフェクトや魅せ方をどんどん付け足すことができて、全体的に豪華に見えるものにできました。

――それができたのはやはり、YouTube版での経験があったから。

乙部 だと思います。最初に一度取り組んでみたことで劇場版に向けて何がハードルになるかを理解できましたし、問題点を修正した土台も作れたので。実はYouTube版でも、制作前にテストはしていたんですね。ただ、そのときは歌もなかったし振付も短くて「くるんと回ってピタッと終わる」ぐらいのものだったので、実際の振付には全然対応できないことがわかったんです。でもその段階ではもうモデルの修正もできないので、合成をしたり、何万とあるポリゴンの頂点を1個1個ずらしていってめり込みを直したり……予想以上の負担が生まれてしまったんですよ。

――それはまた、とんでもない労力ですね……。

乙部 それこそ納品ギリギリまで、作業しても作業しても足りない……というぐらいだったので、「劇場版では、もうこういうことはしたくない」と反省しまして(笑)。振付を観ながら対策を立てつつ細かくモデルチェックをできたから、そういう作業をほぼせずに済むような土台を作れた……という感じでした。

――ただ、今回は新しくダブルスが加わったので、そういった部分で解決しなければいけないことが増えたのでは?

乙部 それが、そのブラッシュアップがかなりダブルスにも生きたんですよ。ダブルスって、単純計算して2倍の負担だけで済む保証はなくて、めり込みとかを直していくなかで万が一回避不能なところが出てきてしまったら3倍も4倍も時間がかかってしまう可能性もあったんです。でもそれが、予想よりも負担が少なくなっていて……当然シングルスに比べれば負担は大きいんですけど、予想以上には早くできた感覚がありました。あと、特に振付的にリリアとスバルのペアは干渉が多くなりそうだと予想していたので、衣装の時点からなるべくやりやすいものに変えたりもしたんですよ。逆にユカリとサナのペアは見た目優先にしたので「大変だろうなぁ」と思ったんですけど、これも結構うまくいきました。

――ユカリとサナのペアだと、ユカリの脚の間にサナがスッと入っていくところが印象的で。本編ですごさを感じたのはもちろん、YouTubeのモーションキャプチャー比較動画を観たときにも、改めて驚きました。

乙部 その中に入っていくためには2人の回転の相対速度を合わせないといけないので、見た目以上に難しいはずなんです。振付されているのがトップクラスの方なのでできて当然のように見えたかもしれませんけど、全然そんなことはないんですよ。ただ、CGではスカートを履いているので、「どうやってこの輪っかの中に通そうかな?」という試行錯誤はありました。

――一方、リリアとスバルのペアのほうでは、どのような部分に特にこだわられましたか?

乙部 お話として、エルダンジュというのは「明らかに強くないといけない」存在なので、振付にもかっこよさや美しさ、あとは難易度高そうな要素を前面に出してもらったんです。でもリリアとスバルの場合は、2人ともまだ始めて1年も経っていない。だからといって下手にも見えてはいけないから、「ポールダンスに詳しくなくてもパッと見でエルダンジュとの差がわかるものでありながら、かっこよくて応援したくなる」というものを目指していました。なので、今思えばダブルスで一番難しかったのは、「ペアごとの違いを出す」というところだったように思います。

――似た難しさは、シングルスにもあったのでしょうか。

乙部 ありました。例えばミオも、踊るとなると大変な部分はたくさんありますけど、詳しくないお客さんも振付の面でエルダンジュに比べてやや勢いや迫力が弱く見えるかもしれない、でも「ミオとして自分の世界を十二分に表現している」と感じられるように、ダンサーさんと相談しながら調整してできました。

――振付の意見交換も、かなりされたんですね。

乙部 そうですね。ほとんどの場合はまず1回テストでいただいて、動画に書き込む形で要望をお伝えしていました。「ここをもっと溜めてください」とか、「レベルの差を出したいので、ここはもう少しゆったり目で大丈夫です」とか。

ヒナノのダンスの大事な要素を決めた、乙部氏の“閃き”

――そのシングルスの曲ですが、こちらでもエルダンジュは各々の個性を立たせながら、それぞれに圧倒的な感じがありました。

乙部 まずノアのほうは、実は振付してくださったKAORI先生が、昔日本舞踊をされていたということで。それで「途中で刀を持ってほしい」とか「仮面をつけてほしい」とかいろいろ言ったんですけど、あとはほとんどおまかせして、上がってきたものに対してただただ「すごいなぁ」と言っているような感じでした(笑)。追加のお願いも「ここで曲に合わせて、もうちょっと派手に動いてください」程度でしたし。ただ、逆にユカリのほうは、最初に上がってきた振付を見たときに正直「足りない」と思ったんですよ。

――なぜそう思われたんですか?

乙部 ユカリというキャラクターは結構難しくて、優雅でありながら強くないといけないんです。YouTube版では「とにかく優雅であればいい」という形で力強さの部分はあまり入れなかったんですけど、今回は両方の要素を入れたかった。そこで、力強さ専門の方と優雅で華麗な技専門の方、2人のダンサーさんで1人のキャラクターを作ってもらうことになったんです。この調整はかなり難しかったんですけど、そこはKAORI先生がすごくうまく対応してくださって。両方納得できる形で、ダンサーさんの精神面も含めて支えていただきました。

――逆にそれぐらいのものを1人で表現できる存在ということ自体に、ユカリの凄さがあるというか。

乙部 そうですね。それもありますし、あとダンサーさんのスケジュールの兼ね合いもあるんですよ。撮りたいタイミングで、海外の大会が入っていたりとか……「海外で優勝して帰ってきました」みたいなことをサラッと言ってくれるようなすごい方たちに参加していただいているので(笑)、結構前からお願いしておかないと、要望に合うものをできる人がなかなかいない……という状態になるときもあるんです。

――続いてギャラクシープリンセス側のシングルス曲について、ヒナノの「Making Shine!」からお聞きしていきます。こちらはクラップなどで、みんなを巻き込んでいく曲でありパフォーマンスになりましたね。

乙部 ヒナノはYouTube版ではとにかく「練習し始めたばかりの女の子」というイメージで、他のキャラよりもちょっとだけテーマ性を背負ってもらいまして。振付も、初心者が最初に習う技から始まって、中級技・上級技・超大技……みたいにステップアップしていくことをテーマにさせてもらったんです。ただ、最初にダンサーさんに考えてもらった振付が世界で通じるレベルのすごいものだったので、「まだここまで行かなくていいです」とお願いして。段階的に上げていく感じにさせてもらいました。それを経た劇場版では、もうひとつテーマがありまして……。

――どんなものですか?

乙部 「ポールダンスから逃げない」ということです。最初は何が正解になるのかわからず悩んでいたんですけど、あるときふとヒナノがずっとこの言葉を言っていたことに気づいて、「これを拾えばいいんだ!」と思ったんです。それで、勢いそのままにバーッとメールを送って、アニメ制作チームのみんなも「それだぁ!」となったので……今思うと、ひとつクライマックスが見えた瞬間だったのかもしれません。

――そのテーマを、振付の中にどう反映されたのでしょうか。

乙部 それをわかりやすく見せられるのは、「ずっとポールの上にいる」ことかなと思ったんです。それで前半ちょっと踊ったあと、後半楽しくなってきて体からキラキラが出てからはポールから降りないことで、振付からも「自分はもう逃げない」という決意を表現できそうだと考えて、オーダーしました。

――ずっとポールの上にいることって、ポールダンスとしては結構あることなんですか?

乙部 たしかKAORI先生が何かのときに「ずっと上にいるのは大変」とおっしゃっていたので、普通はあまりないことだとは思うんです。でもオーダーのときに「1分半ぐらいずっとポールの上にいることになるんですけど、大丈夫ですか?」と聞いたら「大丈夫です」と言っていただきまして……さすが、世界レベルですよね(笑)。あと、シングルスで言えばミオの振付も、ひとつの閃きがきっかけでできたもので。

――何がきっかけだったんですか?

乙部 ミオの振付のテーマである人魚姫って、実はポールダンスでは扱われることが結構多いものでもあるんです。ただ、だいたいは服を着ている状態で踊ってポールに掴まる前に服をバッと脱いで、より軽やかになって空を飛んでいく……という感じの振付で。

――人魚姫が人間になる姿を表現するというか。

乙部 そうなんです。ただ、ミオはコスプレイヤーなので、逆に服を着るほうじゃないですか?だから「ポールに登ったときに服を着て人魚姫になった方が、ミオっぽいんじゃないか?」と思って、ポールに登る前にスカートを閉じるという芝居を入れさせてもらったんですよ。きっとダンサーさんには苦労をかけるだろうなとは思いながら、「これをやらないとミオにならないですし、これができたら本当に世界で唯一のものになります」とお話しして……でもこれも受け入れていただけて。スカートを閉じて脚をわざと拘束して、人魚の尾ひれのような表現をしていただきました。

――その部分は、腕だけでポールをホールドしているので、実は相当な筋力が必要なんですよね。

乙部 そうですね。パッと見ではわからなくても、その大変さに気づくと「実はすごい努力してる子」だとわかるというか……見れば見るほど味が出てくるようなものになっていたらいいな、と思って制作しました。

振付以外の部分での、ダンスパートのCGに込めたこだわりとは

――続いて、振付以外の演出について、乙部さんが特に大事にされたりこだわられた部分をお教えいただきたいのですが。

乙部 まずそのままミオの話からさせていただくと、ミオは振付の中にメイドカフェみたいな要素は入れられなかったので、背景でもうちょっと入れたかったんですね。それで、海の中の生物たちがみんなカフェの店員みたいにコーヒーを運んだりして世界観をもっと表現するということを、ミオではできたように思っています。あとヒナノのほうでは羽根が生えたりわかりやすいエフェクトを追加して「楽しい!」という気持ちを際立たせたり、ユカリだったら後ろに剣がいっぱい刺さって、戦争みたいなものを表現していたり……。

――ヴァルキリー感がありますよね。

乙部 そうそう。「常に自分と戦っている」という内面を表現できたらと思って。背景のモニターの中にも動きを足して、そのキャラクターの心情などを入れていきました。

――そうやって作られたダンスシーンのダイナミックさを増幅させているのが、巧みなカメラワークです。ただその一方で、映像的に破綻させてはいけないポイントもあるはずなので、それを両立させる難しさなどもあったのでは?

乙部 はい。カメラワークって、キャラクターが地上にいるときと空中にいるときとで全く変わるもので。地上にいるときは地面に対してどれぐらいの高さにいるかがだいたい決まっているんですけど、空中にいるとどこからでも撮れるんです。ただ、逆にそのぶん大暴れしちゃう可能性もあって、そうなると見づらくなったりお客さんが酔ってしまうかもしれない。なので特にポールに登ったあとは、とにかく振付やキャラクターの顔を映していいところをたくさん見せることを心がけつつ、背景がすごい勢いで回ったりはしないようにしました。例えばキャラを追いかけるときはわざとカメラを逆回転させて背景の送りを相殺させたり……ということを、実は細かくやっているんです。

――逆を行かせたり緩急をつけたりして配慮もしながら、躍動感も感じられる一番いいバランスを探っていかれた。

乙部 はい。あとYouTube版ではめり込みとかがたくさん起きてしまったことで見せたくないアングルがいっぱい出たんですけど(笑)、劇場版ではその制約が取れたことで、よりかっこいいアングルを撮りやすくもなりました。例えばユカリがシングルスの中で分身と戦う前なんですけど、あそこでポールを上から下にストンと落ちるときに下からすごい煽って撮って、上から落ちてくる分身の光を見せたりしているんです。そういうふうにわざとギミックを見せながら、キャラの動きも一番おいしいところを撮る……ということを、劇場版では結構できたかなと思います。

――それは、ギャラクシープリンセスの側にも?

乙部 ありますね。特にミオは、一番みんなが好きだと言ってくれている海中に潜っていくシーン。あそこ、本当にやりたくて。「人魚姫だけど、海の中へといざなっていく」ようなちょっとした“怖さ”と、でも惹かれちゃう……という魅力みたいなものを出したくて、振付にも「ここ絶対入れてほしい」と頼んでいたぐらいだったんです。おかげで普通のポールダンスとは逆に深海のほうに降りていく、より深いディープな世界に行くという表現ができたので……そういった意味では、CGならではのいろんなアングルを探れたことが光ったように思っています。

――そういった「CGならでは」の部分に加え、『ポルプリ』のダンスシーンには摩擦や重さといった物理的なリアルさやこだわりも強く感じますし、それも魅力のひとつのように思います。

乙葉 一般的なアイドルアニメのCGの場合は、摩擦とかのちょっとしたノイズをプログラムで平均化する処理を入れて消すことが綺麗だとされているんですね。でも『ポルプリ』の場合……というか弊社の場合は、本当にヤバいノイズ以外はそのまま残しているんです。例えば、ものにちょんって触ったらちょっと動いて、そのあとに揺り戻しもあるじゃないですか?そういうゆらぎをならすと綺麗になる反面、人間味みたいなものがなくなってしまうんですよね。

――だからこそ、その後の処理に大変なところがあっても、よりリアルな表現ができるほうを選ばれているんですね。

乙部 そうですね。それは『プリティーシリーズ』なども含めて、弊社がよくやっていることだと思います(笑)。特に『ポルプリ』ではポールとの摩擦があるので、そこを滑らかにしてしまうと嘘をついているように見えてしまう。ただ単にスーッと平行移動するだけだと、実際のポールダンスから全くかけ離れたものになってしまうんです。

――そのこだわりもあって、例えば滑って降りる際の止まり方も本当にリアルですし、一瞬ガクン!と滑りかけるようなところさえあったりしますよね。

乙部 そうそう。逆に言うと、ガクン!となっているかいないかで、キャラクターのポールダンスの熟練度がわかる部分もあったりするんですよ。

――他にも熟練度がうかがえるような見せ方をされたところはあるんですか?

乙部 あります。上手い人ってポールがどこにあるのか感覚で分かっていて、目で確認しないでパッと迷いなく握ったりするんです。あとリリアとスバルのダブルスでは、わざとカメラを少し引き気味にして降りてくるのを待っているような姿を数カット映すことで、ちょっとだけ実力の差を感じられるように……ということも、実はやっているんですよ。「次の振付に向かうために準備をしている」という姿を見せないほうが、うまく見えるので。

――そこまでのこだわりを詰め込んだものを、ダンサーの皆さんがモーションキャプチャーで実演されているんですね。

乙部 はい。ただ、摩擦についてはダンサーさん側のこだわりがすごく大きかったんですよ。摩擦ってポールダンスで一番大事なもので、摩擦がないといろんな表現ができないんですけど、KAORI先生が「スーツを着てキャプチャーすると滑っちゃうので、普通のポールではできないかも」とおっしゃっていたんです。ただ、「摩擦係数のすごく高いシリコンのポールがあるので、それを海外から輸入します」とも言ってくださって。

――輸入ですか!?

乙部 はい。全身スーツを着ても摩擦の具合をうまく表現できたのはそのシリコンポールのおかげでした。

作品初のイベントで感じた、普段とは違う『ポルプリ』ならではの感覚

――そういう細かい部分まで、改めてBlu-rayでチェックしてほしいところですね。さて、そんなBlu-rayの特装盤には昨年開催されたスペシャルイベント“Wish Upon a Polestar”の模様も収録されます。

乙部 僕もイベントは生で観させていただきましたけど、まずOPアクトとして5人ぐらいでポールダンスをされていたじゃないですか?あの人数はさすがに僕らも観たことがなかったので驚きましたし、客席からも「とんでもないコンテンツが出たぞ」という感じのどよめきもすごくありましたし……自分で企画を立てた作品とはいえ、予想外のものが出てきて、素直に「これはヤバい」と感じましたね。

――ライブパートでは、声優さんの歌唱とともにダンサーさんがポールダンスをされていました。

乙部 あのときは、正直普段とは違って「もっと後ろのダンサーさんも近くで見たい!」という感覚もありましたね。「声優さんとダンサーさん、両方観たい」というか……「目が足りない」という感覚でした。

――マルチアングルが欲しいぐらいですよね。

乙部 そうそう(笑)。「ダンサーさんだけを映すもの」「声優さんだけを映すもの」「両方を映すもの」があったら、いろんな人の需要を満たせるのかな、って。

――いわゆる一般的な歌モノコンテンツでは声優さんがダンスもされるので必然的にカメラが集中しますけど、『ポルプリ』の場合は実際に後ろで踊られているわけですからね。

乙部 そうですね。その2つが合わさったときにどう観えるかは全然想像できなかったんですけど……まるで影分身のように、1人のキャラクターを2人で表現するという形にすごく新しさを感じました。他の作品にはなかなかできないことですし、本当にうまいなぁと思いました。劇場版で『ポルプリ』を知った方はイベントをご覧になれていないでしょうから、ぜひ特装盤を手に取って観ていただきたいですね。

――声優さんと一緒の生パフォーマンスは、公式YouTubeのモーションキャプチャー動画ともまた違うものですからね。

乙部 はい。それに、例えばスバルだと、ダンサーさんと役者がポールを挟んで何か対決しているように見えたり、逆に協力しているように見えたりする場面がそれぞれあるんです。それもまさに、この作品ならではの見せ方のように思いました。

――ちなみに、そのイベントでも披露された主題歌「Starlight challenge」になぞらえてお聞きしたいのですが……乙部さんが『ポールプリンセス!!』という作品を通じて次に何かできるとしたら、挑戦してみたいことはありますか?

乙部 ポールを2本立てて、ダブルスのダンスシーンを作ってみたいですね。いろいろ面白い表現ができそうだな……というアイデアはすでにあるので、それをお見せする機会ができたらいいなと思っています。ただ、そうなるとポールの距離もちゃんと計算しないと……理想は「2人が手を伸ばしたら届く距離」なんですけど。

――映像表現の部分でも、その2人で対をなすのか、それとも2人でひとつの世界を作るのか……など様々な選択肢があるように思います。

乙部 そうですね。ただ、今はまだ自分が想像しているだけの段階なので、ダンサーさんにお話を聞くことで初めて出てくるアイデアもしれないですよね。もし今後実際に作れるとなって進んでいくなかで、「こういう表現があったのか!」という発見が増えてくるかもしれないと思っていますし、それもまた楽しみです。

――では最後に、劇場版Blu-rayはもちろん『ポールプリンセス!!』のさらなる展開を楽しみにされている作品ファンの皆さんへ、メッセージをひと言お願いします。

乙部 『ポールプリンセス!!』という作品はWebから始まりましたけど、作品としてはまだまだ短い。なので情報量が足りない部分もいっぱいあると思います。でもそれは、逆に言えばまだまだ語れる部分のたくさんあるコンテンツでもあるということなんですよね。皆さんの愛があれば、どんどんその世界が広がっていくはずですので、引き続き応援をよろしくお願いします。